緑の悪霊 第13話 |
パタパタと走る足音と、扉の開く音。 全力で走ってきたのか、僅かに息を弾ませながらスザクが戻ってきた。 室内に入ると、しばらくキョロキョロと辺りを見回したあと、ルルーシュの姿を見つけ、嬉しそうな笑顔で駆け寄ってくるその姿はまさに主人を見つけてしっぽをブンブンと振りながら駆け寄る犬を連想させ、ルルーシュも思わず相好を崩した。 「ただいまルルーシュ!!」 「おかえりスザク。もうすぐ夕食だから、まずは手を洗って来い」 キッチンからひょっこりと顔を出していたルルーシュは、よく見るとピンクのエプロンをつけていた。スザクは思わず見間違いかと目をこすったが、何度見てもピンクのエプロン。似合う!可愛いよルルーシュ!さすが僕の奥さんはエプロンが似合うっ!と、おもわずじっくりとその姿を鑑賞してしまう。 しかもその手には包丁。 どう考えても料理を作っている格好だった。 「今日の夕食、ルルーシュが作っているの?」 咲世子さんは?と、スザクは辺りを見回した。 だが、視界に入るのは、エプロン姿の可愛いルルーシュと、顔は笑顔だがビシビシと殺気をぶつけてくるナナリーだけだった。 「咲世子さんは、今日は他の用事でいないんだ。すまないが、夕食は俺の手料理で我慢してくれ」 咲世子さんのように美味しくはないかもしれないが。 「我慢だなんて!ルルーシュの手料理久しぶりだから、すっごく嬉しいよ!」 基本的に、咲世子がいればすべて咲世子が用意するため、ルルーシュが料理をつくる機会はそう多くない。再会してからの食事は咲世子が用意してくれていたため、ルルーシュの料理を口にするのは、7年ぶりだ。 「もう少し時間がかかるから、ナナリーと話でもしていてくれ」 スザクが本心から喜んでいるのが理解ったのだろう。 ルルーシュは柔らかな笑顔を向けた後ナナリーを見た。 その瞬間、ほんの僅かだからルルーシュは気づかなかったが、スザクはぴしりと硬直した。スザクとしては、料理を作るルルーシュの後ろ姿を旦那さんよろしく眺めて堪能して・・・と考えていたのに、まさかのラスボスナナリーとの会話を勧めてくるか。 視線をナナリーに向けると『いつまでお兄様のじゃまをするんですかこの駄犬』と言いたげなオーラを放ちながらも、ニッコリと愛らしい笑顔を向けてきた。 「そうだね。じゃあナナリーと待ってるから、手伝うことがあったら呼んでね?」 「お前は客なんだから、寛いでいてくれればいい」 ほら行け、と言われて、スザクは表面上笑顔で、内心は渋々ナナリーの元へ歩いた。 「おかえりなさいスザクさん、お疲れ様です」 『どうせだから帰ったらよかったんじゃないですか?』 「ただいまナナリー」 『まだ用事は何一つ終わってないんだから、帰るわけないだろ』 バチバチと、見えない嫉妬の炎をぶつけあっているのだが、ルルーシュの目には仲睦まじくにこやかに談笑しているように見え、ああ、この幸せな空間を維持するためにも、俺は早く日本を取り戻し、あの糞オヤジを倒さなければ!と、ルルーシュは一人決意を新たにしていた。 そのとき、来客を示すチャイムの音が鳴り響いた。 「こんな時間に誰だ?」 「あ、僕が出るよ」 ルルーシュが火を落としてキッチンを離れようとするのを、スザクは声で制した。 『駄犬でもそのぐらいの役にはたちますよね』 『そりゃあ君とは違って、僕は役に立つからね』 そんな無言の攻防を行った後、スザクは玄関へと向かった。 こんな時間に連絡も無しにやってくるなんて、まともな人間じゃない可能性がある。 ルルーシュを狙った人間かもしれない以上、彼を玄関になどもっての外だった。 玄関を開けた時に立っていたのは、見知らぬ人物だった。 自分より高い身長のブリタニア人。 金髪に人懐っこい笑み。 何よりその人物が身に着けている制服に見覚えがあった。 「ここに、スザクというイレブンがいると聞いたんだが」 緑色のマント、白い騎士服。 ブリタニアの軍人であれば、知らぬ者のいないその姿。 本来であれば、この場所になど居るはずのない地位の者。 「・・・失礼ですが、貴方は?」 ルルーシュのことがばれたのか? だが、スザクを探していると言った。 そもそも本物だとは限らない。 どういうことだと、スザクは表面上はにこやかな笑みを浮かべて対応をした。 「私はジノ・ヴァインベルグ。シャルル皇帝のナイトオブラウンズを拝命している」 その地位に誇りを持っているのだろう。 堂々と胸を張り、そうジノは名乗った。 やはりラウンズか。 だが、ラウンズが何のようだ? 「失礼いたしました。自分が特別派遣嚮導技術部に所属しております枢木スザクです」 僅かに混乱する頭で、スザクはさっと礼を取り名乗のる。 「ああ、やっぱりそうか。私よりひとつ上で茶色の髪と聞いていたから、ひと目で君がスザクだと思ったんだ」 にこやかな笑みを浮かべ、ジノは頷いた。 「自分にどのような御用でしょうか」 しかも、こんな夜遅く、ラウンズ自ら迎えに来るようなことが何かあったのだろうか。いや、何も無いからこそ今ここにいるのだ。明日の昼まで間違いなくオフだった。 「スザクは携帯を持っていないから、呼ぶ場合は迎えに行かなければならないと、セシル女史にきいて迎えに来た。スザク、今から一勝負しよう」 「勝負、ですか?」 「そう、私のトリスタンと、スザクのランスロット。どちらが強いのか勝負したい」 なるほど、唯一の第七世代KMFランスロットとの力比べを望んでいるのか。 帝国最強の騎士だからこそ、最高峰の技術が詰め込まれたランスロットに興味があるのだろう。 「・・・スザクが、ランスロット・・・KMFの、パイロット、だと?」 僅かに震えたその声にハッとなり振り返ると、青ざめた顔のルルーシュがそこにいた。 |